「響け!ユーフォニアム」アニメ3期12話における改変について

※本記事は、ユーフォ原作小説(最終楽章 前・後編)およびアニメ3期12話までのネタバレを含みます。

6/23(日)に放送されたユーフォ3期12話について、原作から大きく改変があったことで周辺がにわかに盛り上がっています。そこで本記事では、具体的にどこがどう変わったのかを踏まえ、原作既読者としての感想を書きたいと思います。

#前提情報:黒江真由について

黒江真由という、3期初登場の新キャラについて。
原作者いわく「黄」と「黒」を合わせると警戒色(「というお遊び的」)な意味のあるキャラクターとされています。また久美子が1年生のときから越えるべき壁として存在していた田中あすかを思わせる銀のユーフォを携えているところから、明確に『久美子にとってのラスボス』という立ち位置に居るキャラクターです。
名前やアイテムからこのあたりを読み解いていると、少しは印象が変わるかもと思ったので始めに補足しておきます。

#原作→アニメの代表的な変更点

1/公開オーディション
アニメ:あり  原作:なし(通常の個別オーディションのみ)

2/全国大会でのユーフォ(ソリスト)オーディションの勝敗
アニメ:真由  原作:久美子(劇的な展開はなく、普通に名前を呼ばれるのみ)

3/大吉山のくみれいシーン
アニメ:あり  原作:なし(※山に行くシーンはあるが、久美子が負けないのでイベントが発生しない)

4/真由との和解
アニメ:あり
原作 :なし(最終オーディション前にいつもの辞退問答をしたのを最後に、エピローグを含めて以後言及なし)

5/黒江真由の背景
アニメ:自分のせいで友だちが部活を辞めてしまった過去があることが12話で発覚
原作 :↑の設定無し。(親が転勤族という設定など、アニメでは出てない設定あり)

6/全国大会の結果
アニメ:最終回待ち。ここも変わる可能性あり
原作 :金賞

7/その他
久美子と麗奈の冷戦終結が原作だと関西大会後だったり、田中ハウス訪問イベント時期や、求くん周りのイベントもいろいろ変更されています。また黒江的には、「全国大会を目指す人は挙手」のシーンに同席させていないなど、細かいところで最初期から改変されています。

#結果改変に関する是非

本題に入ります。
ここで物議を醸しているのは「原告大会のソリ(=ソロの掛け合い)パート奏者が主人公:黄前久美子からライバルキャラ:黒江真由に変更された」という点だと思います。これ程大きな改変はユーフォ1部2部を通して今回がはじめてですが、真由周りに関しては3期の最初期から細かな変更が散りばめられ、この結果に説得力を持たせる下地、「もしかして主人公が負けるのでは」と本気で思わされるような変更が行われてきました。それが構成上の都合なのか、12話に向けたものなのかは分かりませんが。

なので、今回の話だけをみて『改変された』と憤っている人と、最初から追って(変更点を観察してきた)人で、感じ方が少し変わるのではないかと思っています。なお、自分の周りの狭い観測範囲ですが、先週あたりから「もしかしたら展開変わるかも」という予感をつぶやいている人はいましたし、唐突な変更とは感じませんでした。
(怒っている人に聞きたいんですが、1期2期や3期中盤までの改変には文句を言わず、今になって「改変は良くない」っていうのはアンフェアじゃないですか?許される・許されない改変の線引きを自分で決めていませんか?)

具体的にどこが変わったのかというのは枚挙に暇がなく、12話に収める構成の都合上カットされたりイベントの順番が前後したりと全部は書き切れないので、重要な変更点だけ述べます。それは、オーディション辞退に関する記述です。
黒江真由はことある毎に「(ソリの)オーディション辞退しようか?」と投げかけ、黄前久美子は建前上の正論で「上手い人が吹くべきだよ」と言うやり取りが繰り返されています。
※このあたりの確執については、詳細は前回の記事参照

原作では、5回に渡る辞退宣言にも関わらず久美子は上っ面の回答を続け、お互い同じやり取りを繰り返すのみで話が進まず、最終的に久美子がオーディションに勝ったあとも本件には触れられないまま終わってしまいました。

一方でアニメ版では、合宿時にはじめて変化が訪れます。
「上手い人が吹くというのは建前でしょ?(転校生の自分より、頑張ってきた部長に吹いてほしいと皆が思ってる)」と声を荒げて久美子に反抗する真由の姿は、原作ではついに見ることのできなかったものでした。

このシーンの直前、真由の目の前で起きたイベントがふたつあります。
ひとつは、ユーフォのパート練習の中、後輩の久石奏が「久美子先輩と高坂先輩のソリが~」と、あたかも決まっているかのように話し、久美子もそれを否定しなかった、というもの。
ふたつめは、久美子と真由が話している最中に高坂麗奈がやってきて、久美子にソリパートの練習を持ちかけるというもの。

立て続けに、自分を蔑ろにされるようなことを言われ、久美子もそれを否定してくれないという事実が重なった上での感情の爆発は、責められるものではないと思います。
よく聞く感想で「黒江真由は久美子じゃなくて先生に直談判すべきだったのでは」というのがあります。私もそう考えたことがありますが、最近もしかしてと思うことがあります。久美子がタテマエの答えを繰り返すなら、その仮面を剥がして本音で話してほしい。そう思ったからこそ意固地になって辞退botを繰り返したのでは?と思うようになりました。これは妄想です。

#12話の感想

久美子について、今回の敗北でソリを吹くことより大事なものを手に入れたという意味で、負けてよかったと言ってもいいくらい良い改変に思いました。
(アニメだとまだ明言されていませんが)教師として指導者として生きていくことを決めた久美子だからこそ、「上手くなりたい」というこれまでの価値観から離れ、ソリを吹けなくても部長を全うすることに誇りを持って向き合えるようになった、と解釈しています。
久美子と麗奈は、それぞれ「全国で一緒に吹くことで、『特別』を維持できる」と考えていた節がありましたが、久美子は考えを改めたように、麗奈も演奏者としての立場として「どちらが久美子の音か判った上で、上手な方を選ぶ」という選択をしました。
二人とも、『特別』であるための手段としてのソリ演奏よりも、この後の人生もずっと特別であるための選択ができるようになった、という大きな成長が描かれており、もうすでに全国の結果云々より素晴らしいものを得たと言っても良いと私は思います。

もし久美子がオーディションで勝っていた場合、くみれいは全国金という思い出によって特別を維持する関係になっていたかもしれないけれど、それは現在の延長線上にある『特別』であり、今後の未来でふたりが続いていくかというと、私は懐疑的に感じました。盲目的に互いを信じていた関係から脱却して、演奏を通じなくても特別で居られる関係を作るために、この敗北は必要だったのではないかと思います。

「原作のハッピーエンドの方がよかった」という意見も、それはそれで否定しません。ただ私は、高校生活のきらめきをずっと胸に残して大人になる、というのは、高校生活を人生の頂点としたもので、これからも人生が続いていく二人なら、アニメ版の方が断然ハッピーエンドだと思いました。繰り返しますが、どこに焦点を合わせるかの違いであって、優劣をつけるものではありません。

ただ、この敗北によって久美子の立ち位置が鮮明になって、作品を締めるにあたってテーマに決着をつけるという意味ではとても上手な改変だなと思いました。大吉山でふたりが哀哭するシーン、過去との訣別といえる悲しみだけじゃない前向きな涙が流れたところまで含めて、とても綺麗な物語でした。

#蛇足

結局のところアニメの方が良かったのか?という話。
特に、好きなキャラである黒江真由単体でみると、人格形成に関わる過去の出来事や生い立ちが変更されていることもあり、別キャラのように感じていました。その点で、アニメを手放しで賞賛することはできません。私としては、原作で読んだ「悲しい過去などもなく、得体の知れない性格の」黒江真由と久美子がしっかりぶつかり合って落とし所を見つけるところが観たかったです。残念なのはそれくらいです。

ちょうど今週、全国大会以後を描いた短編集が発売されるんですが、原作の黒江/黄前が仲良くやってる姿があまり想像できないので、どう描かれているのか大変期待しています。

この記事をシェアする

関連記事

  1. a 2024.06.24 11:30pm

    ご存知の通り、物語のラストは決まっています。
    小説だとココが重要なので、その為の準備でいろいろな話が組まれていました。
    アニメでは(Cパートの)ラストより(Bパートの)クライマックスの方が重要です。

    最大の改変ポイントは、久美子の進路に関する葛藤を省いた事にあります。
    その代わりに久美子と麗奈の別れについて描こうとしているのではないか。
    そもそも久美子は麗奈と出会って今の自分となり、次の自分になるのです。

    真由の言動や過去は脇に置いておきましょう。
    単純に公開オーディションは双方真剣勝負にしたかったのです。
    原作の弱かった部分を補強して、真剣勝負で久美子が勝つと視聴者を欺く。
    その上でやりたかったのは、
    高坂麗奈によって黄前久美子が選ばれなかった。そんな演出でしょう。

    部長として黄前久美子は北宇治高校吹奏楽部を全国大会 金賞に導くでしょう。
    その後が楽しみですね。

  2. hhhriver 2024.06.25 4:49pm

    いや出来るなら全部原作準拠でやって欲しいよ。それでも色々な事情もあるだろうし、基本線は外してないから納得しとこうと思ってるんですよ。そこを、、、しかも一番やってはならないところをやったから批判が増えているだけ。

    蛇足で書かれている「悲しい過去などもなく、得体の知れない性格」は全く同意見です。そこにエンジョイ勢なのに上手いという設定も重なり緑輝のクラゲ表現や奏の指摘の裏付けでもありますし。なので指摘されているような改変があっても受け入れていたでしょうが、今回のは流石にと思わずにはいられません。

  3. a 2024.06.25 7:11pm

    真由と久美子の実力差は、真由の潜在能力にあります。<原作の行間からの推測>
    久美子はがんばって麗奈に追いつきました(限界)。その演奏と真由の手抜きなしの合奏が拮抗しただけ。
    麗奈がもっと上手ならその差は歴然だったかもしれません。
    例えば、東大理三と千葉医の学生が千葉医の試験で勝負したら拮抗したように見えた感じ。

    真由は全てのオーディションで勝てたと思います。
    物語の大事な最後を、原作者はファンを裏切れなかっただけ。
    (いまのSNSの荒れようからわかるでしょ)

    真由は昔の久美子だったかもしれませんが、久美子の(本人も気づかない)ウソを見抜きます。
    公開オーディションの結果、客席の空気を感じ真由は怯えます。
    すかさず久美子が不穏な空気を制します。これは「正しい人」であるべき自身の本心からです。
    真由はソリ決定でも泣きません、怯えても泣きません、久美子が部長として発言したとしたら
    泣きません(ウソだから)。でも泣きました、いま傷つけた相手が本心で自分守ろうとしてくれたから。

    第12話では、麗奈も泣きます。久美子も泣きます。 泣くのはこの回で終わりでしょう。

    第13話では、きっと久美子と麗奈のソリが見れるかもしれませんね。

  4. 山根 2024.06.26 8:36pm

    ストーリー重視派は今回の改作に原作以上の深みを感じ、キャラクター重視派は「俺の久美子に何すんねん!」という反応を示している。
    私はストーリー重視派なので、原作のピントが合わない最後に違和感を覚えた。
    変にご都合主義だったし。
    今回のアニメのストーリーを久美子が勝つパターンに直すと、原作のような整合性の合わないストーリーになる気がした。
    真由が勝つパターンを書いたあとに手直ししたのが原作ではないのか?
    何故ならアニメは全ての謎をシャープに解決してしまっている。
    ただ久美子には残酷過ぎる結果で切ない終わり方だった。
    それでもあの正しさは一生誇りに思い返せる行動であり、
    教師になった場合、久美子が迷ったときに絶えず指針となる宝物に変わる。
    久美子にとって全国大会は終わりではなく、次のステージの始まりだということを忘れないようにしたい。

  5. 2024.06.26 8:36pm

    久美子自身の最終判断からして、ソリストがどちらになるかはもう気にする必要ないと思うんですよね。まあ久美子という架空のキャラや北宇治吹奏楽部の方針より自分の願望のほうが大事ということでしょうか。

    改変だ、というならまさに蛇足に書かれてる部分なんですよね。アニメだと結局奏と丸被りですから。原作の最後まで対話不能な真由からの変更は自分の願望的にイマイチでした。

  6. mayu 2024.06.27 3:26am

    >>1期2期や3期中盤までの改変には文句を言わず
    ここに限っては少なくともアンコン編までは原作の軸から反れず誰もが良い改変、無意識に受け入れられる改変だったから何も言われなかったんだと思います。
    でも今回は原作の軸からズレたあくまで「別時空のユーフォニアム」レベルの改変な為、賛否両論、作者様も原作は原作、アニメはアニメとして見て欲しいといってるんだと思います。
    私は良いという意見も悪いという意見もどちらもわかります。原作になかった真由との心の触れ合い、さらに一致団結するような描写、ラストの麗奈との語り、原作では足りない部分をこの改変によって補完してくれたと思っています。原作にも疑問に思う所はありましたので。
    ただ今までみたいに「この改変は作品をよりよくするもの」とほとんどの方が納得して見れる改変ではなかったと思います。
    今までほとんどが良い改変という意見だったのに対し、今回は賛否両論の時点で良い改変ではなかった、正解の改変ではなかった事は確かです。脚本家もこんな荒れる界隈を見たかったわけではなかったと思います。もしこの荒れ具合を予想してこの改変をしたとしたら、個人的にはプロ失格だと思っています。(大衆の意見より自分の作りたいものを優先しすぎた結果という事になりますからね)
    誰もが1期や2期の頃から見たかった最後は、久美子のソロで金を取って終了という王道パターンです。12話前のXや掲示板での感想もほとんどが久美子ソロを取って、真由の本心を聞いて和解、奏も加わり、金を取って終了というものを望んでおりました。
    そこから外れてしまったので、今まで受け入れられていた改変とは違ったものになったと解釈しています。
    多くの人が望んでいた王道パターンから外れるという事は、その望み以上の凄いシナリオを描かなければ納得させる事は到底難しいです。確かに良い改変ではあった、ただすべてを納得させるにはパワーが足りない…本来なら期待値を200%超えないといけない改変具合だったが120%ほどで収まってしまった…というのが今回の賛否両論になってしまったんだと思います。
    料理に例えればわかりやすいですかね。ラーメンという料理をメインにしてて、今までの改変は卵やメンマのトッピングを加える改変具合だった…しかし今回はラーメンから蕎麦に変更という料理が変わってしまうほどの改変具合だったからラーメンを求めてた人は「いやいや違う」となってしまったみたいな。
    久美子ソロ、その展開でも真由との和解は充分描けたと思います。王道展開に沿いつつ真由関係で改変を加える…1話から見ていてそれは充分可能だったと思うのです。
    でも脚本家の原作通りじゃ嫌だ、原作を超えたい、こんな王道展開はご都合主義過ぎない、というプライドや我儘みたいなものが垣間見えた感じがして、脚本家のこうしたいという自我が見えすぎた結果、賛否両論のものになってしまったと思っています。
    原作者様も「最後は皆ソロを取って金を取って終了を望んでる」と思ったからこそ原作では王道展開にしたと思いますし、創作物やアニメにリアルではなく夢を見させて欲しいというファンも多くいたと思います。
    上手くなりたいと1期の頃から思い続けてきた久美子、奏も「なんで貧乏くじばっか引きたがる」と言ってたように、1期から考えるとあまりにリアルな展開で可哀想すぎる、そこまで変えてこの展開にする必要があったか正直疑問なんです。原作通りの軸でも良い話は描けたはず、絶対に久美子を落としてまでこの展開にする必要はなかった、この展開じゃないと出来ない事ではなかったと思っております。

  7. a 2024.06.27 12:57pm

    mayuさん

    >「原作は原作、アニメはアニメとして見て欲しい」
    答えはφ(正解はない)

    でも
    > 賛否両論の時点で良い改変ではなかった、正解の改変ではなかった
    答えは≠正解

    論理矛盾してませんか?
    それともあなたは原作者の願いを無視すると言うわけですか?

    >本来なら期待値を200%超えないといけない改変具合だったが120%ほどで収まってしまった
    では10%ごとの基準を提示してください。
    それとも比喩だとでも言いたいのですか?
    なら200%は「私が満足できるもの」という意味に解釈されますよ。マジカ
    「皆が満足できるもの」だと収束しない極限になりますが

    >ラーメンと蕎麦の例え
    アニメが途中から実写になったら「いやいや違う」となるかもしれないが、
    例えとしては極めて不適切。

    >私は良いという意見も悪いという意見もどちらもわかります。
    日本語の文章がわかると言う意味ですか? 
    普通は分析して「何がよい」、「何が悪い」から、なぜ悪いという人たちが
    良いという人たちの評価を受け入れられないのか、その原因を「わかります」としてほしい。
    (山根さんは提示してますよねー)

    ここで一つの仮説を提示してみよう。

    視聴者の年齢層というパラメータを考慮してみる。

    部長として部の為に一生懸命がんばって、奏者として三年間練習を怠らず
    目標だった田中あすかの音を奏でる事ができるようになって、高校最後の晴れ舞台で
    麗奈と約束までしていたのに、その夢を叶える事ができない悲しみ、悔しさ

    なんですが、社会人になって今の年齢から昔を思い出すとその悲しみ、悔しさは
    どうなっているでしょうか? 青春の輝きの中でいい思い出に昇華されている
    と思いませんか? そこまで考慮してこの作品を眺めてみると、黄前久美子はいい青春を
    過ごせたとこの物語を受け入れられるのではないでしょうか。

    製作者サイドも原作者も、もうこの年齢になってるんですよ。
    ところが現役や大学生くらいの子が、この境地に達するまでにはまだまだ時間がかかる。
    成功しない人生を歩むと、思考が成熟しないのでなかなか受け入れられない人もいるでしょう。

    私は賛否がわかれてもいいと思います。

  8. 2024.06.28 12:08am

    原作は読んでおらず今回の改変内容について検索していてこちらにたどり着きました。
    改変内容については概ね予想通りのものでしたが賛否が分かれるのは致し方なしでしょうか。

    王道を求めるならば原作通りなのでしょうが、久美子や麗奈の成長、真由の真意が見られたと
    いう点においてはアニメの展開も説得力のあるものだと感じました。

    展開が異なるというところでアニメを見終わったら今度は原作を読んでみたいと思いました。
    作品への思い入れが強いほどに改変に対しての拒否感も強くなるのかなとも思いますが、
    怒りや悲しい気持ちに任せて誰を傷つけるような声が発信されないよう願っています。

ページ上部へ戻る