※響け!ユーフォニアム短編集「みんなの話」(24年6月発売)のネタバレ全開です。
※本記事で扱うのは原作小説時空です。アニメの話はしませんので悪しからず。
夏コミの新刊でユーフォ新世代二次創作を書いていた関係上、一ヶ月近く読まずに封印してきた短編集をようやく読みました(隙あらば宣伝)
#C104 告知
新部長、久石奏!
次世代を託された奏と、それを見守る夏紀によるIFストーリーです。
小説「Play! Euphonium」(文庫/70P/600円)
8/11(日)東2U-09a『傾き屋』
表紙は夏師 様(@yasagurenoriko)、ロゴは栗柚くりゅー様(@kuryu_lv100)に描いていただきました!
🍈https://t.co/qd2OGnVlbB pic.twitter.com/wY3HdihtIE— うすい☄夏コミ日曜/東U-09a (@usui37) August 3, 2024
以下本文です。
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↓本作では黒江真由の人物像について、国語の読解問題に使ってもいいくらいロジカルに書かれていました。
本編(=ユーフォ最終楽章)ではまったく語られなかった黒江の心情が語られているので、犯人視点のミステリィ小説を読んでいるような気分になりました。まさにユーフォ3期解答編。
ここでは、黒江の描写について詳しく解説しつつ感想を挟んでいきたいと思います。
Q1.黒江の目的は?
「同窓会に呼ばれること」
そのために知人との人間関係で波風を立てず、相手の希望に沿うことが黒江の目的であり、
そして、その目的を達成するために「賞味期限のない友人を作ること」が行動原理ということでした。
では、黄前久美子の「本気で勝負して」という希望がどうして叶えられなかったのかというと、
『本気で勝負したら自分が勝ってしまう可能性があり、勝ってしまうと波風が立つのは避けられない』というリスクがあってのことかなと推測しました。もし真由が、「勝負してもいいよ」と言いつつバレない程度の手加減をするような腹芸ができる人間だったら何の波乱も起きなかったでしょうね。
Q2.『賞味期限のない友人』はどうやって作るか?
黒江の行動原理である「波風を立てず」は、おそらく打率は低いと思われます。実際、さんざん尽くした瑠璃葉さんも期限切れになっていますし。
こういう人間のことを、某氏のことばを借りると
「気になって近づくくせに、傷つくのも傷つけるのも怖いから なあなあにして安全な場所から見守る」ひとなのかなって思いました。
これに対する久美子は、某氏の言葉をきっかけにしたかどうかはさておき、相手の懐に潜り込んで時に傷つきときに傷つけながらも多くの人と親交を深めていきます。この姿勢こそ、本作が表している『賞味期限のない友人』の作り方じゃないかなと思うのです。
これはただの持論ですが、
衝突や対立を経て相手を知り認め合う、この過程にこそ意味があって、そのあと結果として関係性が深まることはあってもそれを目的にしたらうまくいかなと思うんですよね。
黒江は相手を理解するために、言いたいことがあったら何でも言ってね、という台詞を度々使います。これは、黒江自身も本当のことを全部口にする性格であり、だからみんなもそうに違いない、という思想です。
相手が言ったことだけを信じる姿勢は、理解を深めることができません。いつまで経っても表層的なところしか分かり合えません。
奏が言及していたのもこれで、絶対に相手の裏を読もうとしない、「読めない」のではなく「読まない」というのは頑固で分からず屋の考えです。
本作では、その思想が生まれた理由として幼少期に親から教えられたからと書かれていますが、そのあとの人格形成において転勤族だったことや欲しいものは何でも与えられてきたという環境も関係しているはずです。
転勤族なので、サークルクラッシャーでコミュニティを崩壊させてもその後の経過を見ずに済むというのは割とひどい話ですが、本人にしても反省の機会がなくなるという意味でよくなかったんじゃないかなと思います。
Q3.久石奏は何に負けたのか?
黒江のことを勝手にラスボス扱いして一人相撲して勝手に敗北宣言しただけでは……?
というのはあまりにも可哀想なのでちゃんと考えてみます。
「(黒江のことを)理解したくない」というのが第一印象だった久石奏。
これ自体は、黒江の思考が読めずにこわいというよりは久美子の地位を揺るがす存在だと認めなくないという意味にも取れるので保留します。
黒江を攻略しようとする久石ですが、彼女の対人戦略って基本的に相手を怒らせたり慌てさせたりして自滅させるパターンがほとんどなんですよね。
怒らせることで本音を暴き、優位に立つ。
それなのに、どれだけ挑発してもなびかない黒江は天敵であり、それどころか久石のイヤミを本音として信じようとする(前段参照)黒江は、相性が最悪です。
久石VS黒江の戦いとは、そういう嘘と本音のぶつかりあいという構造になっていて、だから『黒江が言っていることを本音と認めざるをえない』ということが久石の敗北であり『完敗です』に繋がってるんじゃないかと考えました。
まあ、どっちみち久石の一人相撲であることに変わりはないのですが……
Q4.黒江真由は、北宇治で無期限の友人を作れるのか?
先程、一生モノの友人を作るためには青春バトルが必要(妙訳)と言いましたが、例外はあります。素の真由と波長があう人間は過去の学校でもいたみたいですし、つばめちゃんみたいな子とは程よくやっていけるでしょう。
また、結果的に一方的敗北を知った久石も、捻くれた舎弟ポジションとして続いていく可能性が出てきました。奏ちゃんって年上の先輩に対してちょろくないですか?夏紀先輩が振り向いてくれないからってまゆかなですか?という気持ちがなくもないですが、この二人は上手くいけば仲の良い関係が築けそうなので、もうちょっと先の時空の話が読みたいです。
Q5.黒江真由とは何だったのか?
→一言で言うと、田中あすかと出会わなかった久美子なんじゃないかと思いました。
真由自身、久美子のカウンターとして、あるいは越えるべき壁としての田中あすか要素がふんだんに盛り込まれたキャラクターです。しかし、開けてみたら全然の別物で、むしろ久美子よりも足りないものが多い子だと気付きました。
真由がほしいもの、実はほとんど久美子が持っているんですよね。
一生ものの友人達も、その他諸々も。
本当は久美子の方が満たされているのに、久美子自身は気付いていない。
かくいう自分も、何度も読んで考えてようやく気付いたくらいです。
それが少し悲しかったです。
黒江真由について言いたいのはこれくらいです。
以下は各話についての蛇足感想文です。
■1/◯の中身はなんだろな
黒江さんが持ってきたマシュマロとハチミツにそこはかとないあざとさを感じる。
>奏ちゃんのクリームチーズのたこ焼き、はちみつとすっごく合うね
あざとい
■2/気がある気がする
>秀一から見ても、黒江は好感の持てる人間だった
しゅうまゆポイント入りました。
ところで、博多通りもんをくれたパーカスのOBってナックル先輩?他に男子先輩が思い浮かばないけど原作時空のキャラクター把握してないのでわからないです
■3/ランチタイムにて
・黄檗にあるパン屋(たま木亭)大人気ですよね。
・黒江さんのお弁当、おかず4品はすごいなと弁当ユーザーの感想。
・写真キャンセラー真由を撮影する緑先輩さすがです
■4/四人は幼馴染
ユーフォ新展開、久石世代の話はもちろん見たいのですが、物語として眺めたいという意味ではこっちの四人が気になるんですよね。
■幕間・アジタート
小日向部長候補に関する言及ありがたい。覚醒小日向のスパルタDMが見たかった。
>真由は当然のように奏の隣に腰かけた
これはちかおくんも勘違いするわ
(野郎相手にはやってないだろうけど度合いは違えど同じようなことしてるよね)
>奏ちゃんさ、私のことどう思ってる?
これはちかおくんも勘違いするわ
>みんなと仲良くするのが夢物語だと(知っている)
原作時空の黒江、転勤族のために価値観が醸成されてこなかった歪みがここで言語化されました。
■5/ドライブ
残り100ページくらいこの話が続くと思ってたのに予告編だけで終わったみたいな物足りなさ。
むしろTLの共同幻想で無限に読んだ既視感しかない。
とりあえず今年の夏は和歌山に向かうふぉろわーが多そう。
■6/彼岸花の亡霊
いなくなった人の声が徐々に再現できなくなるのと、悲しみが過去になるのは同じなんじゃないかと思ってます。
脳内でこだまする声って不思議ですよね。音がないのに脳が記憶から再現しようとする仕組み、不思議です。
■7/賞味期限が切れている
黒江真由解答編。
悪意の届かない人間はこわいね、という話。
>あけおめのメッセージが届かなくなると、真由はいつも切なくなる
これ、黒江さん自分から送ってませんね?そういうとこやぞ。
人間関係をリセットして進んできたせいで、サークラしたあとの泥沼を見ずに去っているという最悪のムーブ。
>真由は自分の行動が正しかったと確信した
あーあ。
■幕間・グラーヴェ
行動原理を理解・納得したことで、自分の感情を片付けて比例を詫びる一連の流れ、やや儀礼的とはいえこういうことができるのが久石の魅力であり、幹部に推される説得力になっているのでしっかり描いてもらえたのはうれしかったです。ただ個人的には最後までイヤミを込めて”黒江先輩”呼びしてお互いきゃっきゃするくらいの距離感でも良かったかなと思いますがまあ個人の感想です。
しかしここにきて黒江真由の欲しかった一生ものの友人枠に久石が収まるとは思わなんだよ。
真由かな、あります。
■8/大人の肴
これ、よくある円盤特典に収録されるドラマCDだ。聞きたい。
■9/新・幹部役職会議
副部長とDMは当日のドッキリじゃないんですか?
ドラムメジャー、どうにかして小日向夢が抜擢されないかなと期待していたんですが残念。
やや妄想込みですが、高坂の下で鍛えられてスパルタ2世になった小日向さんが見てみたかったです。
ユーフォとペットという伝統ここに潰える。
美玲さんは、説明されていたとおり実力やカリスマ、舐められない風格など充分な能力があるので納得の人選でした。
(以下、保存できずに消えてしまったので気が向いたら追記します……ぐだぐだ……)