投稿者: usui

響け!ユーフォニアム短編集「みんなの話」感想(主に黒江真由関連)

※響け!ユーフォニアム短編集「みんなの話」(24年6月発売)のネタバレ全開です。
※本記事で扱うのは原作小説時空です。アニメの話はしませんので悪しからず。

夏コミの新刊でユーフォ新世代二次創作を書いていた関係上、一ヶ月近く読まずに封印してきた短編集をようやく読みました(隙あらば宣伝)

以下本文です。


↓本作では黒江真由の人物像について、国語の読解問題に使ってもいいくらいロジカルに書かれていました。
本編(=ユーフォ最終楽章)ではまったく語られなかった黒江の心情が語られているので、犯人視点のミステリィ小説を読んでいるような気分になりました。まさにユーフォ3期解答編。
ここでは、黒江の描写について詳しく解説しつつ感想を挟んでいきたいと思います。

Q1.黒江の目的は?

「同窓会に呼ばれること」
そのために知人との人間関係で波風を立てず、相手の希望に沿うことが黒江の目的であり、
そして、その目的を達成するために「賞味期限のない友人を作ること」が行動原理ということでした。

では、黄前久美子の「本気で勝負して」という希望がどうして叶えられなかったのかというと、
『本気で勝負したら自分が勝ってしまう可能性があり、勝ってしまうと波風が立つのは避けられない』というリスクがあってのことかなと推測しました。もし真由が、「勝負してもいいよ」と言いつつバレない程度の手加減をするような腹芸ができる人間だったら何の波乱も起きなかったでしょうね。

Q2.『賞味期限のない友人』はどうやって作るか?
黒江の行動原理である「波風を立てず」は、おそらく打率は低いと思われます。実際、さんざん尽くした瑠璃葉さんも期限切れになっていますし。
こういう人間のことを、某氏のことばを借りると
「気になって近づくくせに、傷つくのも傷つけるのも怖いから なあなあにして安全な場所から見守る」ひとなのかなって思いました。

これに対する久美子は、某氏の言葉をきっかけにしたかどうかはさておき、相手の懐に潜り込んで時に傷つきときに傷つけながらも多くの人と親交を深めていきます。この姿勢こそ、本作が表している『賞味期限のない友人』の作り方じゃないかなと思うのです。

これはただの持論ですが、
衝突や対立を経て相手を知り認め合う、この過程にこそ意味があって、そのあと結果として関係性が深まることはあってもそれを目的にしたらうまくいかなと思うんですよね。
黒江は相手を理解するために、言いたいことがあったら何でも言ってね、という台詞を度々使います。これは、黒江自身も本当のことを全部口にする性格であり、だからみんなもそうに違いない、という思想です。
相手が言ったことだけを信じる姿勢は、理解を深めることができません。いつまで経っても表層的なところしか分かり合えません。
奏が言及していたのもこれで、絶対に相手の裏を読もうとしない、「読めない」のではなく「読まない」というのは頑固で分からず屋の考えです。
本作では、その思想が生まれた理由として幼少期に親から教えられたからと書かれていますが、そのあとの人格形成において転勤族だったことや欲しいものは何でも与えられてきたという環境も関係しているはずです。

転勤族なので、サークルクラッシャーでコミュニティを崩壊させてもその後の経過を見ずに済むというのは割とひどい話ですが、本人にしても反省の機会がなくなるという意味でよくなかったんじゃないかなと思います。

Q3.久石奏は何に負けたのか?

黒江のことを勝手にラスボス扱いして一人相撲して勝手に敗北宣言しただけでは……?
というのはあまりにも可哀想なのでちゃんと考えてみます。

「(黒江のことを)理解したくない」というのが第一印象だった久石奏。
これ自体は、黒江の思考が読めずにこわいというよりは久美子の地位を揺るがす存在だと認めなくないという意味にも取れるので保留します。

黒江を攻略しようとする久石ですが、彼女の対人戦略って基本的に相手を怒らせたり慌てさせたりして自滅させるパターンがほとんどなんですよね。
怒らせることで本音を暴き、優位に立つ。
それなのに、どれだけ挑発してもなびかない黒江は天敵であり、それどころか久石のイヤミを本音として信じようとする(前段参照)黒江は、相性が最悪です。

久石VS黒江の戦いとは、そういう嘘と本音のぶつかりあいという構造になっていて、だから『黒江が言っていることを本音と認めざるをえない』ということが久石の敗北であり『完敗です』に繋がってるんじゃないかと考えました。

まあ、どっちみち久石の一人相撲であることに変わりはないのですが……

Q4.黒江真由は、北宇治で無期限の友人を作れるのか?

先程、一生モノの友人を作るためには青春バトルが必要(妙訳)と言いましたが、例外はあります。素の真由と波長があう人間は過去の学校でもいたみたいですし、つばめちゃんみたいな子とは程よくやっていけるでしょう。
また、結果的に一方的敗北を知った久石も、捻くれた舎弟ポジションとして続いていく可能性が出てきました。奏ちゃんって年上の先輩に対してちょろくないですか?夏紀先輩が振り向いてくれないからってまゆかなですか?という気持ちがなくもないですが、この二人は上手くいけば仲の良い関係が築けそうなので、もうちょっと先の時空の話が読みたいです。

Q5.黒江真由とは何だったのか?

→一言で言うと、田中あすかと出会わなかった久美子なんじゃないかと思いました。
真由自身、久美子のカウンターとして、あるいは越えるべき壁としての田中あすか要素がふんだんに盛り込まれたキャラクターです。しかし、開けてみたら全然の別物で、むしろ久美子よりも足りないものが多い子だと気付きました。

真由がほしいもの、実はほとんど久美子が持っているんですよね。
一生ものの友人達も、その他諸々も。
本当は久美子の方が満たされているのに、久美子自身は気付いていない。
かくいう自分も、何度も読んで考えてようやく気付いたくらいです。
それが少し悲しかったです。

黒江真由について言いたいのはこれくらいです。

 

以下は各話についての蛇足感想文です。

 

■1/◯の中身はなんだろな
黒江さんが持ってきたマシュマロとハチミツにそこはかとないあざとさを感じる。

>奏ちゃんのクリームチーズのたこ焼き、はちみつとすっごく合うね
あざとい

■2/気がある気がする
>秀一から見ても、黒江は好感の持てる人間だった
しゅうまゆポイント入りました。

ところで、博多通りもんをくれたパーカスのOBってナックル先輩?他に男子先輩が思い浮かばないけど原作時空のキャラクター把握してないのでわからないです

■3/ランチタイムにて
・黄檗にあるパン屋(たま木亭)大人気ですよね。
・黒江さんのお弁当、おかず4品はすごいなと弁当ユーザーの感想。
・写真キャンセラー真由を撮影する緑先輩さすがです

■4/四人は幼馴染
ユーフォ新展開、久石世代の話はもちろん見たいのですが、物語として眺めたいという意味ではこっちの四人が気になるんですよね。

■幕間・アジタート
小日向部長候補に関する言及ありがたい。覚醒小日向のスパルタDMが見たかった。

>真由は当然のように奏の隣に腰かけた
これはちかおくんも勘違いするわ
(野郎相手にはやってないだろうけど度合いは違えど同じようなことしてるよね)

>奏ちゃんさ、私のことどう思ってる?
これはちかおくんも勘違いするわ

>みんなと仲良くするのが夢物語だと(知っている)
原作時空の黒江、転勤族のために価値観が醸成されてこなかった歪みがここで言語化されました。

■5/ドライブ
残り100ページくらいこの話が続くと思ってたのに予告編だけで終わったみたいな物足りなさ。
むしろTLの共同幻想で無限に読んだ既視感しかない。
とりあえず今年の夏は和歌山に向かうふぉろわーが多そう。

■6/彼岸花の亡霊
いなくなった人の声が徐々に再現できなくなるのと、悲しみが過去になるのは同じなんじゃないかと思ってます。
脳内でこだまする声って不思議ですよね。音がないのに脳が記憶から再現しようとする仕組み、不思議です。

■7/賞味期限が切れている
黒江真由解答編。
悪意の届かない人間はこわいね、という話。

>あけおめのメッセージが届かなくなると、真由はいつも切なくなる
これ、黒江さん自分から送ってませんね?そういうとこやぞ。

人間関係をリセットして進んできたせいで、サークラしたあとの泥沼を見ずに去っているという最悪のムーブ。

>真由は自分の行動が正しかったと確信した
あーあ。

■幕間・グラーヴェ
行動原理を理解・納得したことで、自分の感情を片付けて比例を詫びる一連の流れ、やや儀礼的とはいえこういうことができるのが久石の魅力であり、幹部に推される説得力になっているのでしっかり描いてもらえたのはうれしかったです。ただ個人的には最後までイヤミを込めて”黒江先輩”呼びしてお互いきゃっきゃするくらいの距離感でも良かったかなと思いますがまあ個人の感想です。

しかしここにきて黒江真由の欲しかった一生ものの友人枠に久石が収まるとは思わなんだよ。
真由かな、あります。

■8/大人の肴
これ、よくある円盤特典に収録されるドラマCDだ。聞きたい。

■9/新・幹部役職会議
副部長とDMは当日のドッキリじゃないんですか?

ドラムメジャー、どうにかして小日向夢が抜擢されないかなと期待していたんですが残念。
やや妄想込みですが、高坂の下で鍛えられてスパルタ2世になった小日向さんが見てみたかったです。
ユーフォとペットという伝統ここに潰える。
美玲さんは、説明されていたとおり実力やカリスマ、舐められない風格など充分な能力があるので納得の人選でした。

 

(以下、保存できずに消えてしまったので気が向いたら追記します……ぐだぐだ……)

「響け!ユーフォニアム」アニメ3期13話感想、および過去作における改変について

9年近く追い続けた作品がひとつの終わりを迎えた。
おそらくは十全ではない体制の中、途切れながらも最後まで制作してもらえたことをありがたく思う。不満や要望はあれど、まずは敬意をもって感謝を伝えたい。

#3期の総括
終わってみると、3期はこれまでのリフレインが多用されたという印象が強い。
公開オーディションがその最たるものであり、他には大吉山のくみれい、大好きのハグ、死ぬほどくやしい気持ち等々である。
久美子の成長を描くことに重きを置いたという監督のインタビューを鑑みると、過去との比較は成長を分かりやすく伝える手段であり得心がいく。

#13話における改変

久美子の成長にフォーカスを当てた一方で、割をくってしまった要素も多々存在する。この記事ではその是非は問わないが、何がどのように変わったのかを書いておきたいと思う。原作小説では、大会が終わった直後(2年生編にて、部長に専念したいからという理由で別れた)久美子と秀一の復縁シーンで幕を下ろす。
一方で、アニメではこのシーンは影も形もなくカットされ、かろうじて二人の関係を示すイタリアンホワイトのヘアピンが黄前先生の歩くシーンで見える程度しかない。この改変は、3期より戻ること2作、2年生編を描いた劇場版『誓いのフィナーレ』(以後、『誓』)に端を発する。2年生編の原作では、これまた久美子と秀一の二人によってラストシーンが描かれる。
『部長として使命された久美子が、その職務に専念するため別れを切り出す』という、責任の重さと覚悟を感じさせるシーンで2年生編は終わる。

しかしアニメ版はこのシーンを中盤(合宿時)に改変している。私見にはなるが、「ユーフォに専念したい」と「部長に専念したい」では覚悟の度合いが違うよう思えるし、そもそも作者がラストに置いてあるエピソードをカットする形で改変してよいのか、と当時は思った。
ただ、アニメ版は1期から塚本秀一に厳しいというか、くみれいを全面に押し出すあまり、秀一と久美子の関係性が強く描かれない傾向にあった。自分の狭い観測範囲では、この一連の(しゅうくみに関する)改変は、3期12話のそれと比べてあまり不満の声が聞こえてこない。もし、「結末に関する改変はよくない」と主張するのであれば、『誓』の時点で声を上げてしかるべきではないだろうか。そうでないなら、ただ12話の結末が納得できない気持ちをぶつけているだけではないだろうか、と思った。

話がそれたが、「じゃあお前はどう思ってるんだ」という話をしておきたい。
私は、前の記事で書いたとおり12話の改変には肯定的で、一方の13話については割と否定的に感じている。

しゅうくみ関連は取捨選択したテーマからして仕方ないとしても、夏紀先輩と優子先輩のあの失態はちょっと度しがたいというか、ずっと頑張ってきて引退した後も後輩のこと気に掛けてくれてるひとたちを軽く扱いすぎじゃないかな……とかなり残念に思えた。

『誓』についても否定的なのは同じで、本当は2年生編をテレビシリーズで再編してほしくて、
削られた小日向さんの成長譚も見たいし、久石奏の説得は原作通り夏紀先輩にぶつかってほしかった(←超重要)。

そんなわけで私は改変しても全肯するつもりはないが、だからといって公式を非難したりましてや罵詈雑言をぶつけたりといった大人気ない行為をするつもりはなく、こうして淡々と感想を綴るばかりである。

響け!ユーフォニアム、なんだかんだ言って最後まで楽しかったです。ありがとうございました。

「響け!ユーフォニアム」アニメ3期12話における改変について

※本記事は、ユーフォ原作小説(最終楽章 前・後編)およびアニメ3期12話までのネタバレを含みます。

6/23(日)に放送されたユーフォ3期12話について、原作から大きく改変があったことで周辺がにわかに盛り上がっています。そこで本記事では、具体的にどこがどう変わったのかを踏まえ、原作既読者としての感想を書きたいと思います。

#前提情報:黒江真由について

黒江真由という、3期初登場の新キャラについて。
原作者いわく「黄」と「黒」を合わせると警戒色(「というお遊び的」)な意味のあるキャラクターとされています。また久美子が1年生のときから越えるべき壁として存在していた田中あすかを思わせる銀のユーフォを携えているところから、明確に『久美子にとってのラスボス』という立ち位置に居るキャラクターです。
名前やアイテムからこのあたりを読み解いていると、少しは印象が変わるかもと思ったので始めに補足しておきます。

#原作→アニメの代表的な変更点

1/公開オーディション
アニメ:あり  原作:なし(通常の個別オーディションのみ)

2/全国大会でのユーフォ(ソリスト)オーディションの勝敗
アニメ:真由  原作:久美子(劇的な展開はなく、普通に名前を呼ばれるのみ)

3/大吉山のくみれいシーン
アニメ:あり  原作:なし(※山に行くシーンはあるが、久美子が負けないのでイベントが発生しない)

4/真由との和解
アニメ:あり
原作 :なし(最終オーディション前にいつもの辞退問答をしたのを最後に、エピローグを含めて以後言及なし)

5/黒江真由の背景
アニメ:自分のせいで友だちが部活を辞めてしまった過去があることが12話で発覚
原作 :↑の設定無し。(親が転勤族という設定など、アニメでは出てない設定あり)

6/全国大会の結果
アニメ:最終回待ち。ここも変わる可能性あり
原作 :金賞

7/その他
久美子と麗奈の冷戦終結が原作だと関西大会後だったり、田中ハウス訪問イベント時期や、求くん周りのイベントもいろいろ変更されています。また黒江的には、「全国大会を目指す人は挙手」のシーンに同席させていないなど、細かいところで最初期から改変されています。

#結果改変に関する是非

本題に入ります。
ここで物議を醸しているのは「原告大会のソリ(=ソロの掛け合い)パート奏者が主人公:黄前久美子からライバルキャラ:黒江真由に変更された」という点だと思います。これ程大きな改変はユーフォ1部2部を通して今回がはじめてですが、真由周りに関しては3期の最初期から細かな変更が散りばめられ、この結果に説得力を持たせる下地、「もしかして主人公が負けるのでは」と本気で思わされるような変更が行われてきました。それが構成上の都合なのか、12話に向けたものなのかは分かりませんが。

なので、今回の話だけをみて『改変された』と憤っている人と、最初から追って(変更点を観察してきた)人で、感じ方が少し変わるのではないかと思っています。なお、自分の周りの狭い観測範囲ですが、先週あたりから「もしかしたら展開変わるかも」という予感をつぶやいている人はいましたし、唐突な変更とは感じませんでした。
(怒っている人に聞きたいんですが、1期2期や3期中盤までの改変には文句を言わず、今になって「改変は良くない」っていうのはアンフェアじゃないですか?許される・許されない改変の線引きを自分で決めていませんか?)

具体的にどこが変わったのかというのは枚挙に暇がなく、12話に収める構成の都合上カットされたりイベントの順番が前後したりと全部は書き切れないので、重要な変更点だけ述べます。それは、オーディション辞退に関する記述です。
黒江真由はことある毎に「(ソリの)オーディション辞退しようか?」と投げかけ、黄前久美子は建前上の正論で「上手い人が吹くべきだよ」と言うやり取りが繰り返されています。
※このあたりの確執については、詳細は前回の記事参照

原作では、5回に渡る辞退宣言にも関わらず久美子は上っ面の回答を続け、お互い同じやり取りを繰り返すのみで話が進まず、最終的に久美子がオーディションに勝ったあとも本件には触れられないまま終わってしまいました。

一方でアニメ版では、合宿時にはじめて変化が訪れます。
「上手い人が吹くというのは建前でしょ?(転校生の自分より、頑張ってきた部長に吹いてほしいと皆が思ってる)」と声を荒げて久美子に反抗する真由の姿は、原作ではついに見ることのできなかったものでした。

このシーンの直前、真由の目の前で起きたイベントがふたつあります。
ひとつは、ユーフォのパート練習の中、後輩の久石奏が「久美子先輩と高坂先輩のソリが~」と、あたかも決まっているかのように話し、久美子もそれを否定しなかった、というもの。
ふたつめは、久美子と真由が話している最中に高坂麗奈がやってきて、久美子にソリパートの練習を持ちかけるというもの。

立て続けに、自分を蔑ろにされるようなことを言われ、久美子もそれを否定してくれないという事実が重なった上での感情の爆発は、責められるものではないと思います。
よく聞く感想で「黒江真由は久美子じゃなくて先生に直談判すべきだったのでは」というのがあります。私もそう考えたことがありますが、最近もしかしてと思うことがあります。久美子がタテマエの答えを繰り返すなら、その仮面を剥がして本音で話してほしい。そう思ったからこそ意固地になって辞退botを繰り返したのでは?と思うようになりました。これは妄想です。

#12話の感想

久美子について、今回の敗北でソリを吹くことより大事なものを手に入れたという意味で、負けてよかったと言ってもいいくらい良い改変に思いました。
(アニメだとまだ明言されていませんが)教師として指導者として生きていくことを決めた久美子だからこそ、「上手くなりたい」というこれまでの価値観から離れ、ソリを吹けなくても部長を全うすることに誇りを持って向き合えるようになった、と解釈しています。
久美子と麗奈は、それぞれ「全国で一緒に吹くことで、『特別』を維持できる」と考えていた節がありましたが、久美子は考えを改めたように、麗奈も演奏者としての立場として「どちらが久美子の音か判った上で、上手な方を選ぶ」という選択をしました。
二人とも、『特別』であるための手段としてのソリ演奏よりも、この後の人生もずっと特別であるための選択ができるようになった、という大きな成長が描かれており、もうすでに全国の結果云々より素晴らしいものを得たと言っても良いと私は思います。

もし久美子がオーディションで勝っていた場合、くみれいは全国金という思い出によって特別を維持する関係になっていたかもしれないけれど、それは現在の延長線上にある『特別』であり、今後の未来でふたりが続いていくかというと、私は懐疑的に感じました。盲目的に互いを信じていた関係から脱却して、演奏を通じなくても特別で居られる関係を作るために、この敗北は必要だったのではないかと思います。

「原作のハッピーエンドの方がよかった」という意見も、それはそれで否定しません。ただ私は、高校生活のきらめきをずっと胸に残して大人になる、というのは、高校生活を人生の頂点としたもので、これからも人生が続いていく二人なら、アニメ版の方が断然ハッピーエンドだと思いました。繰り返しますが、どこに焦点を合わせるかの違いであって、優劣をつけるものではありません。

ただ、この敗北によって久美子の立ち位置が鮮明になって、作品を締めるにあたってテーマに決着をつけるという意味ではとても上手な改変だなと思いました。大吉山でふたりが哀哭するシーン、過去との訣別といえる悲しみだけじゃない前向きな涙が流れたところまで含めて、とても綺麗な物語でした。

#蛇足

結局のところアニメの方が良かったのか?という話。
特に、好きなキャラである黒江真由単体でみると、人格形成に関わる過去の出来事や生い立ちが変更されていることもあり、別キャラのように感じていました。その点で、アニメを手放しで賞賛することはできません。私としては、原作で読んだ「悲しい過去などもなく、得体の知れない性格の」黒江真由と久美子がしっかりぶつかり合って落とし所を見つけるところが観たかったです。残念なのはそれくらいです。

ちょうど今週、全国大会以後を描いた短編集が発売されるんですが、原作の黒江/黄前が仲良くやってる姿があまり想像できないので、どう描かれているのか大変期待しています。

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